新潟地方裁判所三条支部 平成8年(ワ)62号 判決 1998年1月30日
呼称
原告
氏名又は名称
株式会社グリーンライフ
住所又は居所
新潟県三条市南四日町四丁目一番九号
代理人弁護士
片桐敏栄
呼称
被告
氏名又は名称
大成通商株式会社
住所又は居所
神奈川県川崎市高津区下作延九六一番地
主文
一 被告は、別紙イ号図面記載のストーブ用ガードを輸入、製造、販売及び販売のため展示してはならない。
二 被告は、原告に対し、金九二万七一三二円及びこれに対する平成八年八月二三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
三 原告のその余の請求を棄却する。
四 訴訟費用はこれを三分し、その二を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。
五 この判決は、第二項に限り仮に執行することができる。
事実及び理由
第一 請求
一 主文第一項と同旨。
二 被告は、原告の有する実用新案登録番号第二〇〇二二二〇号のストーブ用ガードまたはこれと類似のストーブ用ガードを製造、販売行為、その他一切の実用新案権侵害行為をしてはならない。
三 被告は、原告に対し、金四三〇五万円及びこれに対する平成八年八月二三日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
四 被告は、株式会社朝日新聞社全国版に別紙記載の案文により、表題にはゴシック四号活字を、当事者双方の住所・氏名には四号活字を、その他の文字には五号活字を使用して、二段抜きにて印刷した謝罪広告を掲載せよ。
第二 事案の概要
一 本件は、ストーブ用ガードにつき実用新案登録番号第二〇〇二二二〇号により実用新案権(以下「本件実用新案権」という。)を有する原告が、平成六年四月ころから別紙イ号図面記載のストーブ用ガード(以下「本件ストーブ用ガード」という。)の輸入、販売を始めた被告に対し、被告の右行為は原告の本件実用新案権を侵害するものであるとして、実用新案法二七条に基づき、その輸入、販売等の差止めを求め、さらに被告の右行為は不法行為に該当するところ、被告の右不法行為によって原告が被った損害は、少なくとも四三〇五万円と推定されるとして、民法七〇九条によりその損害の賠償を求めるとともに、原告は被告の右行為によりその信用も毀損されたとして、その信用回復のための謝罪広告を求めている事案である。
二 (前提事実)
1 原告は、ストーブ用ガードにつき要約次のとおりの構成要件を内容とする本件実用新案権を有している(各番号は、別紙実用新案図面記載の番号である。)。
(一) 四角状の正面枠体1と同じ一対の両側枠4と後面枠体10の四つの枠によって構成されている。
(二) 正面枠体と両側枠とは上下四ヶ所に回転自在な取付軸7、6で取り付ける。
(三) その上取付軸7には、第6図のように両側枠4の横杆を嵌入するための嵌入溝を設けて、上取付軸を両側枠の横杆に嵌め込む。
(四) 後面枠体は、両端上下に四ヶ所に環状の係止部17を設けて、この係止部を第7図のように両側枠の上下横杆に嵌め込む。
(五) ストーブ載置部を設けた連杆21の二本を正面枠体と後面枠体の下部横杆に係止させる(以上甲二、当事者が明らかに争わない事実)。
2 被告は、昭和五六年に設立された日用品雑貨及びインテリア家具の輸入及び卸売業を目的とする会社である(弁論の全趣旨)。
3 本件ストーブ用ガードは、原告の本件実用新案権の技術的範囲に属するものであり、その輸入、製造、販売は、本件実用新案権を侵害するものである(弁論の全趣旨、当事者が明らかに争わない事実)。
4 原告は、平成三年から平成五年の三年間にわたり、中国のメーカーに本件実用新案に係るストーブ用ガードの製造を依頼したが、瑕疵が多かったことから、その製造依頼を解約した(争いのない事実)。
三 (争点)
1 原告は、要約▲1▼被告が平成六年四月ころから本件ストーブ用ガードを輸入ないし製造してこれをストーブ用ガードSGー六八型とSGー七五型として全国各地の問屋やホームセンター等に卸販売しているが、これは、原告が製造販売しているEXCELストーブ用ガードSGー六八(W)型と同SGー七五(H)型の二種類と同種のものであり、原告の本件実用新案権を侵害するものであるところ、被告は原告が本件実用新案権を有することを知り、あるいは知りうる立場にあったとして、故意・過失により原告の権利を侵害している、▲2▼平成六年四月以降被告が売上げた本件ストーブ用ガードは、SGー六八型・SGー七五型共に二万五〇〇〇台以上と推定されるところ、被告の販売行為がなければ原告は右数量と同数のストーブ用ガードを販売ができたものであるから、被告の販売行為により原告が被った右得べかりし利益分の損害額は、SGー六八(W)型の販売単価金二二〇〇円から仕入原価及び一般管理費(原告の場合販売単価の一九パーセントである)の合計額金一四三二円を控除した金七六八円の二万五〇〇〇台分の金一九二〇万円とSGー七五(H)型の販売単価金二六〇〇円から仕入原価及び一般管理費(原告の場合販売単価の一九パーセントである)の合計額金一六四六円を控除した金九五四円の二万五〇〇〇台分の金二三八五万円との合計金四三〇五万円である、▲3▼被告の本件ストーブ用ガードの販売行為等により、原告はその信用も毀損されているから、信用回復のための謝罪広告を求めうる旨主張して、被告に対し、実用新案法二七条一項による本件ストーブ用ガードの輸入、製造、販売等の差止及び民法七〇九条による前記損害金四三〇五万円とこれに対する本件訴状送達の日の翌日からの民法所定の遅延損害金の支払い並びに新聞紙上への謝罪広告の掲載を求める。
2 これに対し、被告は、本件ストーブ用ガードについてはこれを輸入、製造、販売等したことはなく、単に輸入代行の業務を行ったものにすぎず、原告が本件実用新案権を有することを知りあるいは知りうる立場にはなかった旨主張し、その責任を否定するとともに、本件ストーブ用ガードは、原告が従前中国のメーカーにストーブ用ガードの製造を依頼していたところ、粗悪品が多かったことからこれを解約した際の商品及び中国のメーカーがその金型を使用して製造したものであるところ、原告において中国側メーカーに対する製造の依頼をした際に解約後の製造の中止あるいは販売の禁止を明確にしておくべきであったもので、原告に落ち度がある旨主張し損害額についても争っている。
3 本件においては、被告に本件実用新案権侵害の行為があったか否か、本件実用新案権侵害の行為があったとした場合の損害額及び過失相殺の可否、さらには謝罪広告掲載の可否といった点が中心的な争点である。
第三 当裁判所の判断
一 前記前提事実及び弁論の全趣旨によれば、原告の実用新案権に抵触する本件ストーブ用ガードが国内において販売されていた事実が認められるところ、これが被告による輸入、製造、販売行為によるものであるか否かにつき判断するに、証拠(甲七、甲八、甲一〇~甲一二の四、甲一六、乙三~乙五の八)及び弁論の全趣旨によれば、被告は、平成六年九月ころ、月刊ホームセンターの同年九月号に「広州交易会出展のご案内」と題する同地における商品の買付等のための展示会の案内を掲載したこと、訴外株式会社後藤吉弥商店(以下「訴外後藤商店」という)が右交易会に参加したこと、被告は、平成六年九月初めころ、訴外後藤商店に本件ストーブ用ガード四〇フィートコンテナ一本分(一七〇四台)が入港した旨連絡したこと、同月二六日、訴外後藤商店が本件ストーブ用ガードを購入したが、その後、粗悪品が多かったため返品したい旨連絡したこと、本件ストーブ用ガードについては訴外後藤商店のほかにも訴外株式会社マキヤ(以下「訴外マキヤ」という。)も購入しているが、被告の商業帳簿によれば、いずれも売上として計上されていること、訴外後藤商店及び訴外マキヤは、平成六年九月二六日から平成八年四月二〇日までの間に、本件ストーブ用ガードを合計三四一七台購入しているが、訴外後藤商店においては、本件ストーブ用ガードにつき、被告に輸入の代行を依頼した意識はなく、不良品につき被告に返品等の申入れをして被告がこの返品を受けている事実に照らせば、むしろ被告から購入したものと考えていたと推認されることの各事実が認められ、右各事実に照らせば、本件ストーブ用ガードについては、被告が輸入、販売したものと認めるのが相当であり、他に右認定を覆すに足る証拠はない。
さらに、証拠(甲八)及び弁論の全趣旨によれば、被告は、昭和五六年に設立された日用雑貨やインテリア商品等を幅広く取り扱っている商社であることが認められるところ、このような商社においては、自らが取り扱う商品について意匠権・実用新案権等種々の権利関係の存否あるいはこれらに対する抵触の有無について十分な注意を払うべき立場にあるものと言わざるを得ないから、被告がこれを看過して本件ストーブ用ガードを輸入、販売したことにつき、被告には過失があったというべきである。
この点につき、被告は単に輸入の代行をしたにすぎない旨主張するが、前記各証拠及び認定事実に照らし採用することはできない。
二 ところで、被告が本件ストーブ用ガードを製造していた事実を認めるに足る証拠はなく、かえって、証拠(甲八、原告代表者本人)及び弁論の全趣旨によれば、被告が輸入、販売した本件ストーブ用ガードは、原告がかつて製造を依頼した中国のメーカーに残された金型を使用して製造されたものと認められること、被告は、いわゆる日用品やインテリア商品等を扱う商社であるところ、これまで自らが日用品等の製造を行ったことはなく、また、本件ストーブ用ガード製造のための金型を有しておらず、当該金型の開発を行う能力を有しているとは認められないこと、今後も商品の製造を行う可能性は認められないこと、本件ストーブ用ガードが国内市場に出まわることによる本件実用新案権の侵害については詰まるところ主文第一項の差止により実現できるものであると認められること等の事実が認められるところ、右各事実に照らせば、本件においては被告に対して主文第一項の程度の差止を認めるのが相当であると思料する。
三 そこで、原告の被告に対する損害賠償につき検討するに、平成六年四月以降、被告が本件ストーブ用ガードを合計五万台販売したことを認めるに足る証拠はない。従って、合計五万台の売上を得べかりし利益の前提とする原告の主張は理由がない。証拠(甲一一の一二、甲一二の一~四、甲一六~甲一九の三、乙二の一~四、原告代表者本人)及び弁論の全趣旨によれば、被告が平成六年九月二六日から平成八年四月二〇日までの間に訴外後藤商店及び訴外マキヤに対して販売した本件ストーブ用ガードは、SGー六八型が二七九二台、SGー七五型が六二五台の合計三四一七台であること、そのうち、平成八年一一月三〇日までにSGー六八型が九四九台、SGー七五型が一六五台の合計一一一四台が返品されていること、原告におけるSGー六八(W)型の販売単価は金二二〇〇円であり、仕入原価は金一〇一四円、一般管理費は販売単価の一九パーセントであること、SGー七五(H)型の販売単価は金二六〇〇円であり、仕入原価は金一一五二円、一般管理費は販売単価の一九パーセントであることの各事実が認められる。
原告は、民法七〇九条に基づき、得べかりし利益を損害としてその賠償を求めるので、右の各事実を前提に検討するに、原告には、それぞれSGー六八型につき一八四三台分の、SGー七五型につき四六〇台分の得べかりし利益が存したものと認められるから、SGー六八型につき販売単価の金二二〇〇円から仕入原価の金一〇一四円及び販売単価の一九パーセントの一般管理費を控除した一台当たり金七六八円の利益に返品後の売上台数である一八四三台分を乗じた金一四一万五四二四円の、SGー七五型につき販売単価の金二六〇〇円から仕入原価の金一一五二円及び販売単価の一九パーセントの一般管理費を控除した一台当たり金九五四円の利益に返品後の売上台数である四六〇台分を乗じた金四三万八八四〇円の合計金一八五万四二六四円原告の具体的な得べかりし利益となる。
四 ところで、被告の主張を善解するに、被告は、本件ストーブ用ガードが出まわったのは、原告が中国のメーカーに対するストーブ用ガードの注文加工の契約をした際に解約後の商品の扱いにつき明確な取決めを行っていなかった過失があるからである旨主張しているので検討するに、本件全証拠によっても、原告と中国のメーカーとの間で、解約後の商品の製造・販売について本件実用新案権の侵害を防止するに足る合意をした事実は認められず、かえって両者の間においては、金型はおろか通常なされるべき商品や仕掛品の取戻しあるいは引渡しもなされていない事実が認められるところ、こうした原告の中国側メーカーに対する対応が本件実用新案権に対する侵害問題を引き起こす一因になったことは否めず、原告にも本件実用新案権の侵害につき過失があると言わざるを得ない。そして、その過失の割合は五割と認めるのが相当である。
したがって、前記損害額である金一八五万四二六四円に対し、右五割の割合による過失相殺をした後に原告が被告に対して請求し得る損害額は、金九二万七一三二円となる。
五 さらに、原告は、被告に対し、謝罪広告を求めるが、本件全証拠によっても、原告の信用あるいは名誉が段損されたことを認めるに足りず、原告において他に信用段損等の事実を証明すべき証拠の提出もしない。したがって、この点に関する原告の主張は理由がない。
六 結論
以上のとおりであるから、被告に対して本件ストーブ用ガードの輸入、販売及び拡布の差止を求める原告の主張は理由があり、さらに損害の賠償については金九二万七一三二円とこれに対する本件訴状送達の日の翌日である平成八年八月二三日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を求める限度で理由があるからこれを認容することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法六一条、六四条を、仮執行の宣言につき同法二五九条をそれぞれ適用し、主文のとおり判決する。
(裁判官 下山芳晴)